窓ぎわに降る雪 感触
「やっぱり 部室が一番だよなぁ・・・。何か今日は一段と疲れたなぁ・・・。」
俺は文芸部の部室で机にだらんと突っ伏してくまのぬいぐるみに話しかけた。
バイクで事故り、そのまま入院した馬鹿な先輩が置いていったものだ。
今ではそのぬいぐるみは部員の一人として・・・いや、俺にとっては貴重な愚痴り相手となっていた。
短い首あたりに結んである赤いチェックのリボンが汚れていたので、この間洗ってあげたのだ。
「お前は憎まれ口きかないし、嫌な態度もとらないからな。いい奴だな・・・。」
もちろん、くまはぬいぐるみで返事などない。
別に返事など期待してないのだが・・・。
俺はむなしくなって、原稿でも書いてしまおうと思い資料を探しに行こうと立ち上がった。
この学校には新校舎と旧校舎があるので図書室も二つある。
新校舎の方が当然目新しい本が多く、映画の原作になったものとか軽いノベル小説が多い。
新校舎でもこと足りる気がしたが、気分で旧校舎に行くことにした。
俺は図書室にこそ行くが、旧校舎にはあまり行かないので 何だか緊張する。
頭の良さそうな人達が俺のことをじろじろ見ているのが気になる。
俺が図書室に入っちゃ駄目ってのかよ!?
図書室の木製の戸を開けると、ギィと音がした。
これが不気味なんだよな。古いって感じ。
新校舎とは違い遊んでるやつもいないし本当に静だ。
しばらく本に目を通していると・・・
ドサ ドサ ドサ・・・ガタンッ
何だ・・・?
本の落ちる音やら何かが・・・倒れた鈍い音がした。
一体 どうしたんだろう・・・。
騒ぐ奴なんていないと思ってたのに・・・。本くらい静に見てくれよな〜・・・。
「あの〜。大丈夫です・・・か・」
俺は様子を見に行ったが、ピタッと固まってしまった。
それは 本と本が倒れ、その間に 窓白が倒れていたからだ。
台に乗って本でも取ろうとしたのか、台の脚が折れてしまっている。
「お・・・おい。窓白・・・。大丈夫か?」
窓白は微動だにせず、固まってしまっている。
「台の脚も相当古くなってたんだな。折れてバランス崩れたんだろ。おい!窓白!!」
いまいち反応が薄くなったので頭でも打ったかと思ったが、次第に焦点も合ってきた様で俺がいるコトも分かってくれたようだ。
「もり・・・かり・・・。別に、大丈夫・・・。」
自分でも何が起こったのか呑み込めないらしく、辺りに散乱した本と体のちょっとした痛みに戸惑っていた。
「旧校舎はとにかく古いんだ。・・・気を付けろよな。」
俺がそう言うと、窓白はうるさいといわんばかりに顔を背けてしまった。
俺はまたムッとしたのだが、このままでは二の舞になりかねない。せっかく二人きりになれたのだ。
ちゃんと謝ろう!今が絶好のチャンスだと思えた。
「なぁ。昼休みにさぁ、俺 ヤなこと言ってごめん。・・・俺 カッとなっちゃってさ。本当ごめん。許してな。」
俺はそれだけ言うと、
「窓白も目、効いたよ。体温三度下がった。」
悪戯っぽく付け足した。一応和ませる作戦である。
・・・すると・・・ 窓白が笑ったのだ!・・・
「あははは!何だよ、ソレ!三度下がったのか?変な奴。」
さっきまでそこら向いてむっつりしていたのに笑っている。
さっきまで悩んでいた俺がバカみたいだろ!?
「何だよ、お前!笑いすぎだよ。」
しっかし・・・
こいつでも笑うんだな。何か、びっくりした。
「だって、俺そんなコト言われたの初めてだし・・・。あはは。っーか別にそんなコト気にしてない。
なんつーか、まぁ・・・何だこいつってぐらいは思ったけど。俺の態度も悪かったと思うし。」
そう言うと窓白は笑い涙を指で拭って、にっこりと笑ってみせた。
俺は何故か不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。
「あのさぁ。悪いんだけど本かたすの手伝ってくんない?」
「あ・・・ああ!」
俺は慌てて本を拾い始めた。
危ない!危ない、俺ぇ!!なんで男なんかに!
窓白は男!男なんだからな!!?