窓ぎわに降る雪 感触




「なぁ!おいっ、窓白!!お前っ・・・待てよっ!!」
「触るな。邪魔だ この脳天馬鹿。」
ああ・・・。せっかく捕まえたと思ったのに。やっと捕まえた腕は無惨にも振り落とされてしまった。
「おい。頼むから少し待ってくれよ!!」
意外に歩くのが速い。黙々と進んでいく窓白の後ろをついて歩く俺って何だか格好悪いと思う。
ここは旧校舎。古くさい感じで床の木材の木目が恐ろしいくらいにギシギシと音をたてている。
旧校舎にある図書室には珍しい本がけっこうある。
それ目当てで来た数人の頭良さそうな奴らが明らかに俺達を見ているのが分かる。
俺だって文化部なんだからな!資料探しにだって時々来るし・・・。いちゃ悪いかっての!
何でこんな事になったのか、ど〜してこの俺がこいつと一緒に居るのか・・・。それは今から四時間前のことだった・・・。


「な〜。りょ〜すけ〜。暇だなぁ。なぁ?」
昼休み。いつも通り豊と飯を食って、豊が俺にじゃれついてきた。
「暇だったら あ〜何だっけ?・・・・・ホラ!例の一年!!あいつンとこ行ってやれよ!さっきお前のこと探してたよ。
さり気ないよな。健気で泣けるジャン! な?だから早く行って来い!」
「・・・それって、綾人のこと?それとも亮のこと?」
豊が目を逸らして言ってくる。本当は分かっているくせにこの二人は本当に困る。
「違う、違う。ほら あの変な名前の奴!」
「・・・ あいつのことか・・・。別に関係ないだろ。あいつの話はするな。」
豊はあの一年の話をすると、突如不機嫌になる。まぁ、こっちは静になって助かるんだけど。
「じゃあ、豊。俺 部室行ってレポート書かなきゃいけないから。機嫌直せよ。」
「・・・。」
俺はうつむいてどんな表情をしているか分からなくなった豊の肩を軽くポンと叩いた。
恐らくこの上ないほどの不機嫌顔だろうと思うと何故か豊が可愛らしく思えて、口元が緩んだのが自分でも分かった。
いつもちょっかい出されてるからいい気味なくらいだ。
俺は豊を置いて、静にざわめく食堂の出口に向かった。


「・・・まど・・・。」
教室に向かう途中ー・・・。二年廊下の部室前・・・。
窓白は文芸部の部室前で何かを見ているようだ。
話しかけようか かけまいが迷ったが、別にかけない理由もないのでちょっと近づいてみた。
「よ、よぉ。窓白・・・。」
何か不自然だったかな?
窓白はこっちを見て反応こそしなかったが、俺が話しかけたということは分かったらしい。
しばらく二人でだまっていたが、痺れをきらした窓白が口を開いた。
「なんか、用?」
氷の様な視線を向けて。
「用はないんだけど。・・・そこ、文芸部。入んの?」
なんて、只今 文芸部の部長は俺なんだけど。
「いや・・・別に興味ないし・・・。部活とか、俺 やんないから。」
と言って、フイっと向こうを向いてしまった。
感じ悪ィ。人がせっかく話しかけてやったのに。転校生ならもっと愛想良くしろよ・・・!
「なぁ。お前、なんでここにいんの?校内とか案内してやろうか?」
「は?何で そんなことすんの?別に・・・さっき先生とかから・・・一通り聞いたからだいたい分かるし。」
むっ。
何だかイラっとくるこの態度に俺は窓白を思いっきり睨んで言ってしまった。
「別に・・・先生に良くしてやれって頼まれただけだから。つーか、お前 その性格直さねぇとマジで友達出来ねぇよ?
ってか前の学校でもこんなだったのか?」
そう俺が言った瞬間 その場の温度が5度一気に下がったような気がした。
窓白は無表情で俺のことを睨むわけでもなく、俺が来た方向に歩いて行ってしまった。
「俺、あいつに何て言った?」
一人でぽつりとつぶやいた。
俺もちょっと切れかかってて、あいつの顔見てたら動けなくて・・・。
窓白以上に嫌な奴だってたくさんいるのに・・・。
窓白が俺にそういう態度とると・・・なんか・・・。
そして気付いたら窓白は俺の視界から消えていた。
切れかかっていたとはいえ、何てことを言ってしまったのだろう。
つか、本当に体温下がったかも・・・。
窓白に謝んなきゃ!
そう思って素直に教室に帰った。


教室に入ると、窓白がいることは直ぐ分かった。一人だけ学ランだからだ。
「ーっと。」 思わず顔を逸らしてしまった。
まずいな・・・。
そーいえば窓白の席は俺の隣だったんだ。
気まずいなぁ・・・。謝んなきゃなんないのに、何か言い出すきっかけなくなったし・・・。
俺があーだ こーだ悩んでいると、キーンコーンと何だか本当に情けない俺みたいな鐘が鳴ってしまった。
しばらくすると豊が帰ってきた。
昼間の事をまだ怒っているらしく、何かいつもと雰囲気違うし。
前には豊。右隣には窓白。何だか囲まれてしまった・・・。
気が付いたら数学の教師が長ったるい解説をしてて、そのままの雰囲気で6時限も終わってしまった。
ざわざわと皆教室から出ていくが、俺は気付かれないように窓白の気配を探した。
もう出ていってしまったらしい。
明日にでも謝れば大丈夫だよな。今は怒ってるっぽいし・・・。
俺はこーいうの嫌いなんだよな・・・。
しょーがない・・・。部活でも行くかな。
俺はそのまま教科書やらジャージやらをロッカーに投げ入れた。