窓ぎわに降る雪 Change1




暑い日差しの中、俺は学ランの袖の裾をぐいっと引き延ばした。
目の前に広がるまだ新しい感じの校舎、隣に一つ古ぼけた木造の建物が建っていた。恐らく旧校舎だろうか。
そして新校舎のずっと奥にまで良く整備された庭が広がっている。
ここが・・・俺の新しく通う学校なのか・・・。なんか、気に入らないな。

道のりに沿って行くと、一方通行で職員室まで行ける造りになっていた。
職員はせかせかと忙しそうに動き回っている。
横目でそれを見ながら裏にまわると受付があった。
「あの・・・。すみません、窓白です。」
受付の若い女性に言うと、奥に通された。
しばらく女性に付いて歩くと、そこは校長室で高級そうな木造の扉が建っていた。
何か緊張するな・・・。
若い女性が「さぁ、入って下さい・・・。」と肩を軽く押してきた。

軽く二回ノックしてから扉を開ける。
「失礼します。窓白です。」
俺は入ってから軽く頭を下げた。
「ほぉ・・・白いね。カーテンを引いた方が良さそうだ。焼けるとまずい。」
驚いた。ずいぶん若いんだな・・・。
頭を上げるとまだ三十代後半くらいの男が窓ぎわに立っていた。校長であろう。
男は俺のことを見ると薄いカーテンを引きながら笑った。
「君が窓白雪人君だね・・・。」
そう言って机の上の書類を見始めた。
「はい・・・よろしくお願いします・・・。」
俺がそう挨拶すると男は不適な笑みを浮かべた。
「そう固まらなくても良いよ。私は理事長の高賀だ。」
男・・・高賀が静に靴音をたてて近づいて来た。
なんだ・・・?この人・・・
「その白い肌・・・。その冷たい表情・・・。」
意味深な言葉を発し、何かものを見定める様な視線がした。
俺が一歩退くと高賀が一歩近づいて距離を詰める。
そして扉に背がついたとき高賀との距離はもはやなく、腕を取られた。
腕を捕まれる強い感覚。身体がビクッと跳ねた。
「何を・・・するんですか・・・?」
視線が交じり合った。
「学園内・・・案内させてもらうよ・・・。」


この学園って、どこからでも庭が見えるんだな・・・。
あ、噴水だ。突き当たりの大きな窓に噴水が見えた。周りには立派な木が木陰を作っている。
外に出るのはあんまり好きじゃないんだけど、今度行ってみよう・・・。本なんか読んだり、昼寝も悪くないな。

そう言えば、ここはどこだろう?変な理事長に逃げるようにしてここまで来ちゃったけど・・・。
全然分からないな。あの理事長と一緒にいるのは嫌だけど迷子になってちゃしょうがないよな。
さっきまで校内掲示板の校内図を見て歩いていたけど、いつのまにか生徒通路の方まで来てしまったようだ。




廊下には誰もいない。比較的端の方に位置しているのであろう。暗い部屋が何部屋かある程度だ。
静かだな・・・。
カタン・・・
?・・・何か物音がした。
そして足下には何かが落ちていた。
黒いボールペン・・・だろうか。一体、どこから?
辺りを見渡すとどうやらここは『文芸部』という部室前のようだ。
ここだろうと部室を覗くと、誰か居るようだ。
気付かなかったな・・・。動きがゆっくりしている。眠っていたのだろうか。
あ・・・ペン、取ってあげた方が良いのだろうか?
少し屈んで指を伸ばしてペンを拾う。
するともう正面に来ていた男子生徒と目があった。男は後ろの髪を短く刈り上げていた。
眠そうにしていたのに意外にも速く移動したもんだから驚いてしまった。
このペンは恐らくこの男のものだろう。
あんまり関わりたくないんだけど・・・。
そいつはまだ虚ろな瞳で手を出してきた。
「はい・・・。」
それに合わせてペンを渡してやる。すると、男子生徒が口を動かした。
「ありがとう・・・?」
・・・。今 何か変だった。寝ぼけてんのか?何か・・・
可愛いと思えた。不覚にも・・・でかい図体のくせに・・・。
「どーいたしまして?」
何か楽しませて貰ったから、自分も合わせて言ってやった。
普段なら絶対そんなことしないはずなのに。そんな可笑しさに不思議な気分になった。
少しして顔を上げると男子生徒と目が合った。
こいつ・・・俺のこと見過ぎ・・・。
男子生徒は何も言わず黙々と俺のことを見ている。
俺は今日ここに転校してくるから、自分の知らない人間がいることに戸惑っているのだろう。
でも・・・どこか、可笑しいかな?学ラン、だけどまだ届いていないからしょうがない。
何だか不安になり、そっと廊下に出た。
男子生徒はいまいち気付いていないようだ。まだ呆けているのだろうか。
まぁ、俺には関係のないことだけど。
でも未だこちらに気付かず、床を見つめる男子生徒にちょっとした憤りの感情を感じた。


そんな不可解な気持ちを残して俺は職員室まで戻った。