夏休み-過去- 2




上映開始から2時間とちょっと・・・。
話も段々と終わりそうな雰囲気になってきて。
予想通りの展開で、実にベタなストーリーであった。

どうせ助かるんだろ・・・この主人公達。
地球も救われたし。

でもこんな映画も映画館で観ると少しは盛り上がるというものだ。
アクションシーンでは周囲の客から声が上がる。

俺は隣に座る窓白の方を見た。
暗くて良く見えないが、真面目に静観している。
こんなつまらない映画真面目に観なくても良いものを。
小声で話しかける。

「な・・・。俺が言った通りになったろ?」
「そうだな・・・。まぁ、そんなもんだろ・・・。」

そう言ってまた視線をスクリーンに戻す。
本当に、真面目な奴だ。






場内が少し明るくなり、映画が終わったことを知らせるブザーが響いた。
ざわざわと人が離れていく。
俺は目を閉じていた。
この後の事を考えているのだ・・・。
後は、飯喰って、買い物とか・・・そんな感じ。
まぁ・・・取りあえず楽しく過ごせれば良いのだ!
「なぁ、窓白。まどし・・・」

窓白は・・・泣いていた。
・・・
いや、正確には俺がそう見えただけなのだが・・・。

「は・・・?え、っと?窓白?」
「え・・・何?」
「泣いてる?」
「・・・・・・。」

窓白は俺の顔を不思議そうに見ると、自分の顔に手をやった。
目元をさする。

「別に・・・泣いてないじゃん。」
「・・・そか・・・。いや、ちょっとそう見えた。」
「何だよ、それ。」
「あ、あははははっ・・・。」

俺は少し笑って誤魔化すと、もう一度窓白の方を見た。
確かに窓白は泣いてはいなかった。涙もない。
だけど・・・
酷く悲しい表情をした。
そんなに悲しい話では無かったはず・・・!
誰も死んでない!地球も助かったのに何故?

「ま・・・窓白!取りあえず!他に移動しよう。」
もう十五分そこらで次の映画が始まってしまう。
「そうだな。」




映画館近くのファーストフード店にて。
俺達は向かい合って、黙々と食べていた。

窓白は本当にさっき泣いていなかったんだろうか?
いや・・・泣く理由なんて無いのだが。
有ったとしても皆目検討がつかない。

「なぁ・・・さっきのさー・・・映画。どうだった・・・?」
「・・・面白かったよ、普通に。」
「そっか?じゃあ、良かっ・・・」
「あ、でも・・・」
「・・・!」
「あの内容じゃ確かに女は喜ばないな。」

・・・は
はぁ?何の話だ。

俺が眉をつり下げ困ったような顔をすると、窓白はジュースをストローで吸った。

「お前言ったろ?俺じゃなきゃ駄目って。つまり男友達とじゃなきゃ駄目って事だ。
あのアクションじゃ誘われても嬉しくないと思うぞ・・・。」
言って、またストローを囓った。

「言ったけど・・・別にそんなんじゃないって。」
「予行練習かと思った。」
「はぁ・・・!?ば、ばか!誰と行くんだよ!いねーよ・・・!」
「彼女・・・いないのか?」
「う゛・・・い、良いだろ。いなくても・・・。」
「・・・ふぅん。」

そうしてストローは囓ったままで身体をずらし、窓の外を見つめた。
窓の外。つまりは店外。
大勢の人が歩き、皆忙しそうに行き交っている。
窓白は何も考えてなさそうな・・・でも深刻そうな・・・きっと俺には一生出来ないような顔をする。

でも、俺は窓白のこんな大人びた表情がすごく好きだ。
悲しそうだけど、何だか儚いって言葉が合うのだろうか・・・。

「なぁ!窓白!」
「・・・なに?」
「どっか・・・窓白の行きたいとこに行く!今日は一日中付き合う!」
「・・・はぁ?別にどこにも・・・。」

俺は窓白の目をじっとみつめた。その先を言わせまいとして。

「・・・分かった。じゃあ・・・静かなところ。」
「静かな・・・。難しいな〜・・・。」





静かなところ・・・。
俺達は公園を歩いていた。
午後を過ぎて日差しも弱まり人も出てきたが、町の中央公園には人はあまり居なかった。

「何か・・・昔のこと思い出しただけだよ。」
窓白は先程の事を言っているのだろう。
しかしそういう話をまた振って来るとは、反応に困ってしまう。
「え・・・昔?」
「うん。お前と会う以前の事。」

俺と会う・・・以前の事・・・。
俺の知らない窓白の事・・・。
そういえば、窓白の昔の事とか聞いた事なかったな。
転校する前の学校とか・・・。

「さっきの映画で?どんな事?」
「んー・・・。何だろーなぁ・・・。」
「何だよ。思い出したんじゃなかったのかよ。」
「やっぱ・・・・・・何でもないっ!」
そう言って窓白は俺の肩を強く叩いた。

本当は弱いくせに。
さっきまであんな顔してたくせに。今はもうまるっきり子供の様に笑う。

窓白はいつも強がっていて、何だか周りにはいないタイプだから少し動揺する。
何か悩んでるなら力になってやりたい。

そう思うけど窓白は俺に何も言わないし、聞いてもどうせ何も教えちゃくれないだろう。
そういう奴だって分かっちゃったんだ。
だから・・・。

「手ぇ・・・貸して。」
「え・・・。」
「ほら・・・。ホント、冷たいなぁ・・・。」
「なに勝手にっ・・・!」
「誰も居ないんだからいいじゃん。少しくらい〜。」
「・・・はぁ。」

強く握りしめた手が大人しくなるとそのまま繋いで歩いた。
そこから何か伝わるような気がした。

「なぁ・・・男同士で手繋いで歩くのって・・・有りなの?お前。」
「別にー・・・。こうしてると何か安心しない?」
「・・・別に。」

窓白はいつもの様に顔を背けて隠した。

本当に・・・素直じゃない奴だなぁ・・・。

「なぁ!またどっか行こうなー!」
「痛い痛いッ!手を振るな!」
「へへへっ♪」
「あぁ、もう!分かったから、手を離せ!」
「分かった。じゃ、約束な?」
「あ・・・あぁ。」




その日は暗くなるまで散々ぶらついて、別れた。
足はクタクタで家に着くなり布団に転がった。
窓白と繋いだ手が熱くて、空中で振った。

映画館で思い出すこと・・・。
何だろうなぁ・・・?

むせ苦しい程の真夏の夜。
そう考えているうちに俺は深い眠りに落ちた・・・。

<FIN>