夏休み-過去- 1




最近では窓白とも大分仲良くなった気がする。
部活も一緒だし、席も隣。しかも一駅違いとはいえ帰る方向は同じなので帰りも一緒である。
窓白が転校してきてもう四ヶ月になろうとしていた。
時が過ぎるのは実に早い。
今は夏休みに入って一週間になる。
毎日のように暑い日が続いて嫌になるが、まぁ それが夏というものなわけであって・・・。

一週間家に籠もっていたがやることも無いし、家にいてはやれることも限られてくる。
これから毎日だらだらしていてはしょうがないとは思うけど・・・。

あ、そうだ!誰か遊びに誘おう!!
俺が暇ってことはみんなも暇を持て余しているはず!!

俺は携帯の番号のところを開いて、中学からの友達とか高校の友達数人に誘いの電話をかけてみた。
しかし、皆部活が忙しく暇はないらしい。
そーだよなぁ・・・。俺ら二年だから部活は忙しいよな。

普通夏休み前に三年は引退か別練習かになるので、基本的には二年が一年を引っ張っていかねばならない。
しかし俺は文芸部なのでそこら辺は関係ない。

でも文芸部っていっても誇りを持って活動してるんだからな?
確かに長期休みに学校行かなくて良いから楽は楽なんだけど。

しかし部活以外にもデートなんて不純な理由で俺の誘いを断った奴がいた。
これはこれでむかつくよな・・・。

さて、大祐はもちろん部活が忙しいだろう。
ということは・・・。
着信履歴の画面を出して一番上。
窓白の名前が出ている。
電話では話したり、メールもするけど夏休みに入ってからは一度も会っていない。
窓白も夏休みの予定は特にないとは言っていたような気がするし、丁度良いかもしれない。
早速電話する。
三十秒ほど待たされるのはいつもの事だが今日はずいぶん長くかかった気がする。

『・・・何?』
「・・・もしかして、怒ってる?」
普段より若干声が低く、唸るような声が聞こえてきた。
『怒ってない・・・。』
「・・・分かった。・・・今起きただろ?」
『・・・起きてたよ!失礼な・・・。』
そう言うが、最後の方がだんだん弱まっている。
起きてたとは言うものの、布団の中でボーっとしていたのだろう。
現在正午過ぎ。太陽は照りついて蝉も騒がしいこの時間。
いくら朝に弱いからって、こんなに暑い昼間によく寝ていられるもんだ。
「お前・・・そろそろ起きた方がいいぞ・・・。」
『・・・起きてるってば。・・・で?』
「あぁ。そうだ・・・。明日さぁー暇?」
夏休みだからってこんな時間まで寝てる奴に期待できないかなとは思ったが誘ってみた。
『明日?・・・別に良いけど。』
「よっしゃ♪じゃ、明日・・・一時に。」
『分かった。でも、何するんだ?』
「ん〜あ!映画行こーぜ。」
『映画?・・・そーいうのって女のコと行くもんだよ。』
「え?何だよ!俺は窓白と行きたいの!っていうか窓白じゃなきゃ駄目なんだ!」
『えっ!?・・・。』
「ってことで明日宜しく。」
そう言って電話を切った。

やったぁ!明日は映画館で涼しく過ごせる!
丁度見たい映画もあったので良かった。それに窓白にも会えるし、一石二鳥って感じだ。



次の日。

「おはよう・・・窓白。」
「何がおはようだ・・・。お前絶対、俺の方が遅れてくると思っただろう!」
「・・・正直、思った。」
そうなのだ。意外にも待ち合わせ場所に先に着いたのは俺ではなく窓白。
っていっても俺は時間通りに来ただけだけど。
「普通、待ち合わせっていうのは十分前には着いておくもんだ。」
「分かったって。別に時間通りに来たんだから良いじゃん。」
窓白も本当に怒っているわけじゃないようだ。顔は笑っている。
しかし・・・待ち合わせにはちゃんと来れるのにどういうことなのだろうか・・・?

「良し、暑いからさっさと行こうぜ。」
「そうだな。」

窓白はずいぶん涼しそうな服装で、真っ白な肌があちこちから見えている。
シャツの上にもう一枚羽織っているがそれは薄い生地であり、何か見るのに困る。
真っ白な肌はほんとうに女の子みたいに細く、柔らかそうである。
そして窓白のことだからこんな猛暑でもいくらかはひんやりしてそうだ。

「えい。」
「な、何!?」
「いや、冷たそうだなと思って。」
俺が腕を掴んだら窓白が睨んできた。しかし動揺しているのか、ぜんぜん迫力がない。
それだと俺はつい調子にのってしまう。
「窓白。つめたーい♪」
「ちょ・・・っと!暑い!離せって!」
窓白は俺の腕を振り解こうとして藻掻いた。
しかし、俺の力には敵うまい。

「冷たいわけ無いだろう!?俺は普通の人間なんだからなっ!」
そう言い、やっと腕から逃れた。

・・・まぁ、窓白は普通の人間だろうな・・・。

「でもこんなので動揺してちゃまだまだだな〜。」
「・・・何の話だ?」

実際俺達の学校では常識離れした過剰なスキンシップが多い。
しかも男同士で。
そしてそれに慣れつつある自分がもっと怖い。

「・・・何だか知らんが、引っ付くなよ。」
「分かったってば。」
俺は渋々歩く窓白を連れて、映画館に向かった。


映画館は夏休みからか少し混んでいた。
家族や恋人が多く見られる。海や娯楽施設は車で少し行けば幾らでもある。
しかしこの暑さではそこまで遠出する気にもなれず、街で過ごす人が増えてきた。
これも地球温暖化とガソリン代が高くなった影響だろうか?

人混みに混ざると窓白がうんざりな顔になってきたので、早々に館内に入ろうと思う。
「窓白、俺チケット買ってくるよ。」
「分かった。じゃあ、ここで待ってるから。」

やっぱり窓白は人混みが嫌いなようだ。

チケットを買いに列に並ぶ。
暑いから、さっさと涼しい館内に入りたい。

しばらく並ぶと、あと一組で俺の番になった。
今チケットを買っているのは、カップル。しかもだいぶ熱々な。
暑いのに引っ付くなよな〜。

目の前の恋人達は腕を組み、二人っきりの世界に入ってしまっているようだ。

やっと俺の番になり、高校生二枚を頼んだ。
少し待っている間、ポップが目に付いた。

            恋人限定2割引

恋人限定・・・。
つまりさっきのカップルは恋人だからこの割引がうけられるわけだな。
・・・ふむ。
色んなものが有るモンだ。

「お待たせ。行こうぜ〜。」
「・・・。なぁ、引っ付いてんの暑苦しいだろ?」
「!・・・見てたの?」
「良いな。コイビトは。」
「・・・窓白?」

窓白はそう言って館内に入ってしまった。
急いで追いかけると、館内は外の外気よりずっと涼しかった。
ひんやりとした風が吹いてくる。

「なぁ。一階と二階どっちで観る?」
「んー・・・。一階かな?まだ空いてるだろ。」

俺達は一階の上映室に入り、後ろの方の席に座った。
「後ろの方が見渡し良いよな。」
「・・・そうだな。」

窓白は今日 随分喋る気がする。
楽しんでくれてるのかな?

しばらくして照明が落ち、場内が暗くなった。
そしてスクリーンに映画が流れ始めた。
俺が観たかった映画は、アメリカのアクションもの。
何かがきっかけで地球に未確認生物が侵略してくるという内容で、たまたまCMで見かけた。
絶対つまらないと思ったが、そういうのを友達で観るのはなかなか面白い。
そう思って窓白を誘ったわけだが。

始めに他の新作映画の情報が少し流れ、それから映画が始まった。